「えらいすまんこってすなあ」
「あんた、あっちの部屋掃除してきて」
「607号室、毛布が一枚だけ足りんってどないこっちゃ!」
すんごい、この夢うるさいんですけど。
ちょちょちょ、私まだ部屋にいるんで清掃に入らないでくださいよ!
はっと目を覚まし、
時計を見る。
どないこっちゃ!
10時半!
部屋の外では、清掃のおばさん達が
相も変わらず、関西弁で怒鳴り合っている
夢じゃなかったのか。
ここは大阪
今日は友達の結婚式
昨日、通天閣前で昼間っから呑みーの
夜は夜で、呑みーの
酔っぱらって
コンビニでご祝儀袋買いーの
で?
集合時間は?
「ホテルのロビーに11時15分集合ね」
昨夜の友達の朧げな声
うわわ。
っていうか、チェックアウトは11時。
ご祝儀袋、そのまんま。
頭いてー。
いっそいで
紺色のワンピースを着て
黒のエナメルのヒールを履き
荷物をまとめる。
そうだ、豆乳とスコーン持って来てた。
冷蔵庫から豆乳を取る。
が、箱の側面にくっついているはずのストローが!
どこで落としたんだよー。
泣きっ面に蜂
でも、こんくらいで負けないぞ。
メイクポーチの中から小さなはさみを取り出し、徐に角を三角に切る。
挙式前の豆乳一気飲み!我ながら勇ましい女だ。
ロビーに下りる。
「お!少年が少女になったねー」
友達が笑う。
「昨日は性別年齢不詳だったもんなー」
確かに。大阪っぽい恰好を意識しすぎて
完全に浮浪者っぽい恰好やったわ。
酔っぱらって、コンビニ前で友達に買ってもらった缶コーヒー飲んで。
「すいません、マジック貸してください」
ご祝儀袋に名前を書く。
にしても、昨日は楽しかったなあ。
けっこう酔っててすみませーんだったけど
なんかいい夜だったなあ。
ときどきの思い出話は、いいもんだ。
そして、同じ思い出を共有しているというのは、実にいいもんだ。
ときどきでいい。
ときどき、こうして、集まって、
私以上に私の過去を知っている人々と
慰め合い、励まし合い、
自分の歩いて来た道を確かめ合う。
相変わらずだねと言い
変わらないよねと同じ笑顔を見せる
変わらないはずなどないことを
各々、充分に知りながら
けれど、変わるはずのないことも知っているから。
結婚式
私たちは
新婦を前に、泣きに泣いた。
時が経ったこと
彼女が、元気に幸せそうであること。
戻れない日々があるからこそ
今日が美しいということ。
それらを全部受け止めて、
友人を心から祝福できることが
何より嬉しかった。
大人になったよなあ。
披露宴で、スクリーンに流れる、
恥ずかしい高校時代の写真を
見ながら笑い合った。
「くみちゃん、呑み過ぎ注意だよ!」
「はい!気をつけます!」
またね。
また会おうね。
久美子
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