真実を写す

恵比寿の写美(東京都写真美術館)が好きで、ときどき行きます。
今、そこで三つの写真の展覧会をやっているのですが、良い企画展でした。
3階は、7人の写真家による19世紀から20世紀にかけての
ヨーロッパの生活風景などを映したソーシャル・ドキュメンタリー写真。
2階は特殊な撮影方法や加工などを施した、
現代の写真が持つ新しい面白さが見える若手作家の作品展示。
地下一階が、さらに未来を予測する、
映像を使った作品中心の展示となっています。

これらを、過去から未来に向かうように3階から順に見ていきました。
写真の捉え方っていうのは、音楽と似ています。
一つのものでも、感じ方は人によって様々。
そういう説明的でない自由さが好きです。

実際、私の中に強く響いたのは、
3階の 幕末とか明治とか、
とんと昔のヨーロッパの写真家の作品たちでした。

中でもアウグスト・ザンダーの作品。
いろいろな階級、職業のドイツ人を記録したポートレートなのですが
「若い農夫達」というタイトルの一枚の写真にまず驚きました。
そこに写された彼らは、絶対、農作業なんてしない格好だったのです。
一張羅のスーツにハット、ステッキを持って、
イケメン軍団がザンっとそれはそれは素敵に並んでいるのです。
他の多くの写真も同様に、
労働者も、農家の家族も、みんないい服を着て
ピシっとキメて写っているのです。
衝撃でした。
農作業中や炭坑で働いている姿の方がよりリアリティがあったでしょうに
なぜ、階級も職業も分かりづらい記念撮影風にしたのか。

一周見てもう一周見たとき、そうか、と思いました。
写真の人物の目や表情が、全てを語っていたのです。
服装が作業服じゃなくとも、その表情には変わることのない
個の生き様がしっかりと刻まれていました。
私が初め感じた服装の違和感は作者の意図だったのではないかと思わせる程に
表情は何よりも彼らの存在をリアリティあるものにしていました。

家族を守らねばならない父の目。
まだ社会の厳しさを知らない新卒者のニンマリ顔。
年をとってもやわらかそうな頬。
若いのに、日に当たって焼けた頬。
悲しみを知っている深い眼差し。
学者、医者、警察官、料理人、母・・・
それらの写真には真実を真実として写し出す力がありました。

そしてイメージしたのでした。
「写真撮らせてください」って有名なカメラマンが来たら
「ちょちょちょちょっと待って!」
って、誰だっておめかしするでしょう。
ましてや今みたいにカメラが普及していない時代です。
一番いい服を着て、葉巻もくわえ、バリバリかっこつけるでしょう。
ばたばた部屋に戻ってお化粧だってしたいでしょう。

写真の中の彼らは本当にいい目をしていました。
一生懸命生きていた、その証を100年後の日本で
私はしかと受け取ったのでした。