その1

女の作品論


高橋久美子(以下K) : 結構飲みますか?

さとうりさ(以下R) : ここにいると連日飲んでいるので、量はだんだん減っていく感じですね。

K : え、毎日飲んでるんですか?

R : 毎日。後半になると参加アーティストも、来るようになるんでどっか飲みにいきますよね。飲みに行くと、一軒じゃ終わんない。

K : 終わらんなー。

R : で、お金ないと今度は缶ビールになって、こういう感じで外で

K : もう外でいいやんってね、なるよね。うちらも展覧会中は毎日そんな感じやったね。もう、飲まなきゃやってられねーよってなって。

R : そうですよね。

K : で、さっきも、9時間くらい毎日作業してたって言ってたじゃないですか。私たちも、そんな感じで、真夏のむっちゃ暑い倉庫の中で熱中症になりながら。

R : え!危ないですよ!

K : そうなんですよねー、ほんとに、危ないですよねー。

R : 私はこの黄金スタジオ(背中越しのスタジオ)で制作していたんですけど、この部屋はエアコンが効いてたのでまだ良かったですよ。

K : 何月からやってたんですか?

R : 7月の真ん中からですね。

K : そっか、公開制作でしたもんね。デザインした物の中に綿をつめてチクチク縫っていく感じなんですか?

R : つめるというより、ブロックでスポンジを買って、大っきいスポンジがボンって届いて、それをあの形に削り出すんですね。カッターでシュッシュッって、それをこうね、

K : ああ、肉巻きロールみたいに布で巻くんやね。

R : そう肉巻きロールみたいにね。で、それを糸で縫っていく。

K : ふんふん。え、アシスタントさんもなしで、ソロで?

R : そう、ソロで(笑)

K : すーごいですね。じゃあ、7月からはずっとここで。

R : そうですね。一ヶ月半はここで。

K : その期間中はこれ以外は全くせずですか?他の仕事とか。

R : できないですね。やっぱり。ルーティンワーク的なことができなかったです。

K : そっかー。この作品、このあとどうするか問題、さっきちょっと喋ってましたけど。今までの風船っぽいやつは?

R : 風船ぽいやつはあんまりかさばらない。とはいっても、14mのやつとかは・・・。

K : え!え!14m!

R : それは重さが20キロくらいになるんだけど、薄いビニールのバルーンなんで、畳んでもみかん箱4つ分くらいかな。

K : 言うたらビーチボールみたいなもんで、沈めたら畳めるんや。

R : そうたためる。でも今回のとかはどうなるかわからないですね。実家にもおけないし。

K : そうですよね。

R : 自分で小さな倉庫を借りてるんですけど、その中にも入らないし。

K : 私も、展覧会で使った板とかは、半分くらいは捨てたんですけど、でっかい作品で壁に直接詩を書いてる作品とかは、分解して2トントラックで実家の倉庫に運んだんですけど、お父さんから大ブーイングみたいな(笑)

R : そうそう、うちも。学生の頃からの作品が実家にあって、お父さんから、もう無理だよって言われてる(笑)
で、昔の作品を捨てに帰ったりして。

K : うわー、自分の作品を捨てるのはきついですね。

R : きつい。

K : なんかええ方法ないんかな。絶対必要としとるとこありますよね。子どもの国みたいなとこに置きに行くとか。私達(ヒトノユメ)やったら、駅の連作の詩があるんですけど、駅のホームに飾ってくれんかなあとか考えたんやけど、なんせね、自分でね、連絡してね、動かないんですよ。マネージャーさんとかいたらあれかもしれんのやけどね。

R : なかなか難しいですよね。物を作る脳と、物を管理する脳って違うじゃないですか。

K : ほんまにそう。

R : 両方できたらいいですけど、交渉とかに時間を割いてると、一日の制作時間がキューって短くなってストレスになっちゃう。

K : そうそうそうそう、わかりますー!ものすごいストレスになってる。今プロモーションばっかやってる場合じゃないぞって。ほんまにわかる。事務的な作業とのバランスが全然とれんくなって。ほんで胃潰瘍になりました。

R : えー、うわー。

K : 東京で、去年展覧会やったときは、なりましたね。完成して、やれやれって、みんなで、かんぱーいってビール飲んだらめちゃくちゃ胃が痛くて、おかしいって思って病院行ったら、「あ、胃潰瘍ですねー」って

R : 胃潰瘍って何かできちゃうんですか?

K : いいえ、穴が。

R : あー、穴ですか。完全にストレスですね。そうなるまで気づかない!

K : 徹夜徹夜でー。気づかないんですねー。

ところで、何であの人間とも動物ともつかないあの物体を作ろうと思ったんですか?

R : 昔はどの作品にも顔がついてて、さとうりさといえばキャラクターと言われてたときがあったんですけど、今は顔、目、鼻、口がない作品も増えてきてます。今回の作品だと、見たときに感じる丸み、重量感、詰まってる感じに拘りました。バルーン作品の頃より、形に対する意識が変わってきたのかもしれない。
あと単純に、生き物を生み出したいという気持ちがいつもあります。今回の作品も、“手足があるから人間っぽいけどなんか違う…何だろうね?” みたいな。ファンタジーっぽいけど、うすら怖くて気持ち悪いみたいな。

K : そうですね。若干おどろおどろしさがありますもんね。かわいいだけじゃない。

R : そうですね。そういうムードが好きですね。

K : 私も、そうかもしれない。作品作るときに、綺麗なだけじゃない、どこか、裏側みたいなものを見せたいって思ったり、血の匂いがするじゃないけど、生きてる感覚は入れたいなと思う。女の人ってわりと、そういうの多いかなって。

R : そうですね。なんか女の人の方が血に強かったりするじゃないですか。

K : そうね、グロテスクだったりね、割と残酷だったりね。

R : 出産する人達だからっていうのもあると思うんだけどね。文学の世界で憧れている作家さんとかっているんですか?

K : えー。そうやなー。詩人やったら、金子みすゞさんとか、茨木のり子さんみたいな、本当に女性詩人の代表的な人が好きなんですけど、やっぱり、女の人の書く詩やなって思うんですよね。女の人の潔さ、強さみたいなんもんと、さっき言っていた、ちょっとドロッとした部分ていうか、自分が女やから感じるのかもしれないんですけど、ありますよね。
それを、露骨にやってないんですよね女の人って。露骨じゃないけど、ちょっとゾクってするなっていうのがいい。

R : あー、わかりますね。やわらかいふりして、毒も出すというか。

K : そうそう、普通の言葉を並べといて、ゾクッとする気持ち悪さも匂わしますよね。男の人の方が意外とナイーブなんちゃうかなあって思うんですよ。

R : そうかもしれないです。メルヘンチックっていうか、ロマンチックっていうかね。

K : そうそうそう。夢見がちですよね、女子よりも。家族を見ててもそうですよね。お母さんのほうがいざという時強いよね。

R : あははは。いつでも落ち着いてご飯作るみたいな。